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熊本地方裁判所 昭和48年(行ウ)4号 判決 1976年3月29日

原告 山田勝次

被告 南関町長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告が中九州観光株式会社に対してなして昭和四六年度から昭和四八年度まで各一〇〇万円合計三〇〇万円のゴルフ場補助金交付処分を取消す。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の事実上の陳述

一  請求原因

1  被告は、福岡県大牟田市上町二丁目一四中九州観光株式会社(代表者代表取締役 汐待久記。以下、訴外会社という。)に対し、中九州カントリークラブゴルフ場(以下、本件ゴルフ場という。)につき昭和四六年度から昭和四八年度まで各一〇〇万円合計三〇〇万円の補助金を交付する旨の処分(以下、本件補助金交付処分という。)をなした。

2  しかしながら、本件補助金交付処分は、何らの法令にも基づかない違法なものであるから、原告は被告に対し、地方自治法二四二条の二、一項二号により右処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認める。

三  抗弁

(本件補助金交付処分の適法性)

本件補助金交付処分は、地方自治法二三二条の二に基づいて行なわれたものであるが、次の理由により、「公益上必要がある場合」に該当するので、適法なものである。

1 訴外会社はその経営する本件ゴルフ場を創設したことにより、南関町および不特定多数の同町民に対し、次のような利益をもたらしている。すなわち、第一に、本件ゴルフ場は、事務員等として二〇名、キヤデイとして平日は一日平均五〇名(休日は同六〇名)、芝整備等の人夫として一日平均一五名の従業員を雇用しているが、南関町民がその約九割を占めている等、同町民に同町内において働らく場を提供し、もつて、町内産業を振興し、同町の人口が流出するのを防止することに寄与している。第二に、本件ゴルフ場が南関町にあることにより、同町は訴外会社から昭和四六年度は九三万六〇〇〇円、昭和四七年度は九七万七〇〇〇円、昭和四八年度は一一四万九〇〇〇円(見込み)の固定資産税の納付をうけるほか、熊本県から昭和四六年度は一四六万二〇〇〇円、昭和四七年度は二五一万八〇〇〇円、昭和四八年度は六〇〇万円(見込み)の娯楽施設利用税交付金の交付を受けることができる等、南関町財政が豊かになるという利益がある。第三に、訴外会社は、肥料・燃料等の物資を南関町の業者より購入するので、右業者らは相当の利益をえている。第四に、本件ゴルフ場は、南関町民の健全な娯楽施設として、また美しい町づくりに役立つている。

2 加えて、被告が本件ゴルフ場を南関町に誘致するについては、次のような事情があつた。すなわち、本件ゴルフ場の敷地は、もともと南関町を計画・推進主体、同町土地改良区を事業主体とし、栗園造成を目的とする団体営パイロツト事業の用地であり、右事業は昭和四四年五月熊本県知事の認可を得て、その用地買収も終つたのであるが、その後大雨があつて右用地に近接する造成地が崩壊し、下流の田畑に被害を及ぼしたことから、前記事業につき災害補償契約の事前締結等が問題となり、結局同年八月右事業は中止のやむなきに至つた。そこで、被告は善後策として南関町出身者である汐待久記に前記事業用地にゴルフ場を建設することを依頼し、同人がそれを応諾したため、南関町は窮状を脱した。

また、昭和四六年夏、本件ゴルフ場に水害が発生し、訴外会社に特別の出資があつた。

3 そこで、被告は、前記1および2の事情を考慮したうえ、南関町における産業の振興を図る目的で、南関町工場設置奨励条例の精神に則り、本件補助金交付処分を行なつた。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は争う。本件補助金交付処分は、南関町工場設置奨励条例に基づいて行なわれたものであるが、本来本件ゴルフ場に右条例を適用することはできないのであるから、右処分は違法である。仮に、本件補助金交付処分が地方自治法二三二条の二に基づいて行なわれ、また被告主張の事実が認められたとしても、訴外会社は営利を目的とする私企業で、本件ゴルフ場も私的利益追求のため建設したものであり、それにより南関町のうける若干の利益は、右経営に伴う一結果にすぎないのであるから、本件補助金交付処分は公益上必要がある場合にあたらず、違法というべきである。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二1  そこで、本件補助金交付処分がいかなる法令に基づいて行なわれたかについて検討するに、成立に争いない甲第一号証、乙第三号証、証人菅原千明の証言によつて真正に成立したと認める乙第六号証、同証人および証人石井了介の各証言によれば、本件補助金交付処分は地方自治法二三二条の二に基づいて行なわれたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  そこで、本件補助金交付処分が南関町の公益上必要な場合に該当するかどうかについて検討する。

(一)  前掲甲第一号証、乙第三号証、第六号証、原本の存在および成立に争いない甲第三、第四号証、証人汐待久記および同石井了介の各証言により真正に成立したと認める乙第七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める乙第八号証の一、二、一四ないし一八、証人菅原千明、同汐待久記、同石井了介の各証言および原告本人の供述を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 訴外会社はその経営する本件ゴルフ場により、南関町および同町民に対し、直接、間接に次のような利益をもたらしている。すなわち、第一に、南関町には未開発地が多いうえ、本件ゴルフ場のある臼間山は、シラス地帯で利用価値が少ないだけでなく、これを開発するには水害防止などに多額の費用を要する等土地開発にはもともと不適であつたが、訴外会社によりゴルフ場用地として開発がなされた結果、同町に災害防止を兼ねた健全な娯楽産業の実現をみた。第二に、本件ゴルフ場は、事務員等として約二〇名、キヤデーとして平日は一日平均約五〇名(休日は同約六〇名)、芝整備等の人夫として一日平均約一五名の従業員を雇用しているが、その八割が南関町民である等、相当多数の町民に稼動場所を提供して同町の人口が流出するのを防止する利益をもたらしている。第三に、訴外会社は南関町に対し、昭和四六年度は九三万六〇〇〇円、昭和四七年度は九七万七〇〇〇円、昭和四八年度は約一〇〇万円の固定資産税を納付したほか、訴外会社がゴルフ場を経営し、熊本県へ娯楽施設利用税を納付したことに伴い、熊本県から南関町に対し、昭和四六年度は一四六万二〇〇〇円、昭和四七年度は二五一万八〇〇〇円、昭和四八年度は約六二〇万円、昭和四九年度第一期は約三四〇万円(第四期まである。)の娯楽施設利用税交付金が交付され、しかもこれらが年々増加することが予想される等して、南関町の自主財源が増加し、町財政が豊かになるという利益をもたらしている。第四に、南関町外から多数のゴルフ場利用者が来町し、同町内の商店等を利用するだけでなく、訴外会社が肥料・食料品等の物資を原則として南関町の業者から購入するため、それから恩恵をうける業者がいるとともに、同町に活気を与えている。

(2) 加えて、被告が本件ゴルフ場を南関町に誘致するについては次のような事情があつた。すなわち、本件ゴルフ場の敷地は、もともと南関町を計画・推進主体、同町土地改良区(理事長は被告が兼務することになつている。)を事業主体とし、栗園造成を目的とする団体営パイロツト事業の用地であり、右事業は、昭和四四年五月熊本県知事の認可を得て、その用地買収も終つた。ところが、同年七月南関町に集中豪雨があつた際、右用地に近接する造成地が崩壊し、下流の田畑が土砂で埋没するという災害が発生したことから、前記事業につき災害補償契約の事前締結および災害防止施設が問題となり、結局同年八月右事業は中止のやむなきに至つた。そのような動きの中で、被告は善後策として南関町の土地開発のため、汐待久記に対し前記事業用地に防災施設をしたうえゴルフ場を建設するよう依頼したところ、南関町出身者で、かねてから同町のために役立ちたいと考えていた汐待久記は、同町の協力を条件に右依頼を承諾した。

そこで、汐待久記は訴外会社を設立し、本件ゴルフ場は昭和四五年一一月ころ完成したが、その間南関町と訴外会社は地元民立ち会いのもとに、「被告は、ゴルフ場の建設並びに建設後の運営に関し、地方自治法および南関町の条例に違背しない範囲で積極的に協力する。訴外会社は、防災施設について地元代表者と協議して万全を期し、もし災害が発生した場合は罹災者の納得のゆく補償と復旧工事を行なう。ゴルフ場の建設工事および完成後の運営に必要な労働力は町内住民を使用する。」旨の協約を締結した。ところが、臼間山はシラス地帯でもともと雨に弱いこともあつて、昭和四五年に二回ゴルフ場に水害が起きた他、昭和四六年六、七月ころにも水害が起こり、右各年とも訴外会社に四〇〇〇万円位の災害復旧費の負担を余儀なくさせた。

(3) ところで、南関町には、「南関町における工鉱業の発達を推進するため、南関町に工場(営利を目的として、物品の製造、加工若しくは修理をする施設)を新設し、又は増設する者に対し、町税の課税免除若しくは不均一課税、補助金の交付、又は便宜の供与を行ない、もつて本町産業の振興を図ることを目的とする」南関町工場設置奨励条例が施行されており、同条例によれば、被告は、一定の工場を有する者に対し、三か年間、固定資産税の課税を免除したり、当該年度において賦課された固定資産税の一〇〇分の五〇に相当する額を限度として補助金を交付することになつている。

しかるところ、本件ゴルフ場は右条例の適用をうける「工場」ではないから、被告は、訴外会社に同条例を適用することはできないものであるけれども、訴外会社の経営する本件ゴルフ場は前記(1)のとおり、右条例の適用を受ける工場以上に南関町および同町民に寄与貢献していることおよび前記(2)の事情も加味して、訴外会社に対し、地方自治法二三二条の二の規定を適用し、前記条例の例にならつて三年間固定資産税の免除をするのと実質的に同じ扱いをするため、訴外会社が南関町へ納付すべき固定資産税相当額にほぼ匹敵する年一〇〇万円の補助金を昭和四六年度から三年間訴外会社に対し交付することを決めた。

(4) かくして、被告は訴外会社に対し、昭和四六年度分の補助金一〇〇万円については、昭和四七年三月一六日南関町議会を経て、同年四月五日これを支出し、ついで昭和四七年度分の補助金一〇〇万円については、昭和四八年三月二〇日同町議会の議決を経て、同年四月一八日これを支出し、さらに昭和四八年度分の補助金一〇〇万円については、同年六月二一日同町議会の議決を経て、同年九月四日これを支出した。

以上の事実を認めることができる。

(二)  ところで、地方自治法二三二条の二は、地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる旨定めているが、その内容を具体的に定めていないから、地方公共団体が同条の規定の趣旨に従つて、右交付処分が住民にもたらすであろう利益、程度等諸般の事情を勘案して判断すべきことになるが、その判断につき著しい不公正もしくは法令違背が伴わない限り、これを尊重することが地方自治の精神に合致する所以というべきである。

右の観点から、本件についてみるに、前記認定の事実関係によれば、訴外会社はゴルフ場という娯楽施設を営む営利企業にすぎないものではあるが、企業の少ない南関町の、しかも利用価値の乏しい山地に災害防止のため相当の出捐をして同町に新たに有力な産業を興し、もつて南関町内に多数の同町民の稼働場所を提供して同町の人口の流出を防止することに役立つており、また固定資産税および娯楽施設利用税交付金等により南関町財政を著しく豊かにし、かつ将来もその蓋然性が高いこと等、同町および不特定多数の同町民に寄与貢献しており、しかも、その程度は南関町工場設置奨励条例の適用をうける工場よりも大きいものと考えられ、さらに補助金の支出金額は三年間で計三〇〇万円であり、同条例にほぼ準じていることが認められる。

してみれば、被告が訴外会社を助成し、ひいては南関町の産業の振興を図る目的で、右条例の例にならつてなした本件補助金交付処分は、地方自治法二三二条の二の規定する公益上の必要性を満たすものというべきである。

三  以上説示のとおりであるから、原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 糟谷忠男 中野辰二 山口博)

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